社員第一号でベトナム人雇用!社労士が語る「外国人が安心して働ける環境」とは【東京国際社会保険労務士事務所】

*新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、オンラインインタビューで実施しました。

近年、外国人を雇用する企業が増加してきています。外国人雇用の場合、日本人雇用と同じ点も多いものの、文化的な摩擦でトラブルに発生したり、そもそもの商習慣が異なることで誤解が生じやすくなってしまうのも事実です。トラブルや誤解を防ぐために、企業の外国人雇用のサポート役として伴走してくれるのが社労士の先生です。

今回は、アジアを中心とした外国人雇用のサポートを手掛けている、東京国際社会保険労務士事務所 代表社会保険労務士 小泉沙織先生とベトナム人従業員のファン・ティ・テー・フォンさんに「外国人が安心して働ける環境」についてインタビューしました。


話し手:東京国際社会保険労務士事務所 代表社会保険労務士 小泉沙織(こいずみ さおり)さん

昭和57年東京都目黒区生まれ。青山学院大学卒業後、創業約5年の約100名規模のベンチャー企業にて、商品企画・開発・販売促進・広告・コールセンター・物流・経理・総務・予算業務を経験。その後社労士事務所勤務を経て開業。従業員数が1名から400名以上の規模の顧問先、ベトナム駐在員事務所顧問対応中。
【資格】社会保険労務士、経産省認定支援機関、出入国管理庁認定登録支援機関、年金アドバイザー3級、簿記2級


話し手:東京国際社会保険労務士事務所 ファン・ティ・テー・フォンさん

ベトナム、ハノイ生まれ。2016年にベトナムのハノイ通信大学卒業を卒業後、2016年2月に学生として来日。2019年に東京国際社会保険労務士事務所に入社。代表の小泉氏のサポート役として、ベトナムにある日本企業とのやり取りや、現地の法改正の情報などを素早く取集、クライアントへ伝えるなど、ベトナムと日本の両国の架け橋となるような業務を担当している。


事務所情報

【事務所名】東京国際社会保険労務士事務  https://www.tokyointernational.asia/
【創業】2017年 【従業員人数】1名(外国籍 1名)
【海外拠点】なし(2020年6月現在)
【外国人採用歴】2019年  ベトナム出身者
【事業内容】人事・労務顧問、社会保険事務

「働きやすさを改善すると、企業はさらに発展する。」ことへの強い思いから2017年開業。外国人を雇用している企業のサポートを中心に、従業員数が1名のところから400名以上の規模も含め顧問を担当し、オーダーメイドでの親身な対応を心掛けている。社長一人で抱えている様々な労働課題に寄り添いながら、頻雑な労務手続、給与計算、助成金申請などのサポートを全面的に対応している。

貴事務所の事業ビジョンと事業内容をお教えいただけますか?

小泉先生:事業のビジョンとしては、アジアを中心に外国人を雇用されている企業様の労務顧問として一緒に伴走したり、これから外国人雇用をしようとしている会社様の労務顧問として従業員が働きやすい環境づくりをお手伝いしています。

具体的なところで言うと、ベトナム、ハノイの駐在員事務所の労務顧問などを担当しております。今は新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあって、遠隔で労務顧問をしておりますね。ベトナム語で記載のベトナムの労働法・関連法規を最新をチェックしながら、日本の労働法ではこうだがどの点が異なるか、追加で対応が必要な点は、と意識しながら、顧問先にこの準備は済んでいるか、済んでいない場合、整備を弊所にて対応等進め、現地労働法及び関連法規に日本企業が準拠できるよう気にかけ、対応しています。また、現地雇用ベトナム人従業員からのベトナム語の質問メールにフォンさんがベトナム語にて返答の対応をしています。回答内容については、共に、ベトナムの労働法・関連法規をわたくしにて精査の上回答しています。

なぜ外国人採用を始められたのでしょうか?

小泉先生:顧問先の企業様にアドバイスをするにあたり、私自身が外国人と働いた経験がなければ、言葉に説得力が出ないと思ったからです。私自身が外国人を雇用した経験を持つことで、外国籍従業員への業務の指示の仕方や連絡、相談の方法などを職場内で実践・改善しながら、それを顧問先にも役立てることができると思いました。事務所内で実際に実施した改善策は、弊事務所の業務改善・生産性向上に役立つだけでなく、顧問先の企業様でも、職種や業種が変わっても役に立つ情報と既になりつつあります。

また、外国籍の方を雇用しようと思った背景には、ハングリー精神だったり、モチベーションが場合によっては日本人を採用するよりもあるのではと思ったこともきっかけの1つです。私も経営者ですので、会社のことを本気で考えてくれる人を採用したいと言う点では、日本人よりも外国籍の方のほうが「異国の地で働きたい」と言う意欲を持っているので、そう言った点が大きな魅力と思いました。

外国籍の方と働くうえで、気をつけているポイントはございますか?

小泉先生:外国籍の方がマイノリティにならないように心掛けています。外国籍の方が働き辛くなってしまう背景には、大多数が日本人で外国籍の方がマイノリティの会社様が多い状況というのも1つの要因だと思っています。それは日本でのビジネスをするという特性上自然です。どんなに外国籍の方に配慮しようと思っても、ルールなどは大多数に合わせて決められていくので、そうすると外国籍の方が肩身の狭い思いをすることになったり、発言力が弱くなってしまう傾向があると思っています。であるからこそ、「大多数」に合わせた制度・風土になりがちなのを会社側は強く意識して、ケアしていくことは外国籍従業員定着率に有効と考えます。

弊事務所は、今の段階で日本人の私とベトナム人のフォンさんの1対1の関係なので、外国籍の方がマイノリティではないんですね。今後の方針としても、事務所を大きくしていくにあたって、例えばもし私を入れて5人の従業員になったとしても、できれば「3人が外国籍で、2人が日本人で」というような形で外国籍の方が日本人よりもちょっと上回るぐらいの人員配置にしたいと考えています。そうすることで、外国籍の方が働きやすい環境が作れるのではないかなと考えています。

とはいえ、多くの企業様では、日本人が9割で外国籍の方が1割、もしくは0.5割の状況が多いと思うんですね。外国籍の方が少ない環境では、弊事務所のようなことは難しいと思うので、外国籍の方を大多数にする採用施策などを行うのではなく、どのような支援策が必要なのか、どう言った配慮が必要なのか、会社として制度を整備していくことが必要にはなってくるかと思いますね。

具体的にどのような点を配慮されているのでしょうか?

小泉先生:母国に残っていらっしゃるご家族の方への配慮なども忘れないようにしています。やはり、母国にいらっしゃるお父様、お母様からすると異国の地で大事なお子さんが働くというのは誇らしさと同時に、とても心配なことだと思います。特に日本はブラック企業や、長時間労働などの報道もあります。そういった側面をニュースとして耳にしているかもしれませんので、心配事を少しでも軽減できるように、母の日に日本からベトナムにいらっしゃるフォンさんのお母様に事務所より、カーネーションをお送りさせていただきました。届いた際のお写真を送ってくださって、お母様が喜んでいたご様子をお伺いできてとてもよかったです。このような取り組みは、お子さんが異国の地で働く親御様への安心へ繋がるかと思いますね。

入社年度としてはご挨拶として、このような取り組みを行い、入社2年目以降は「親孝行手当」という形で、今回のような取り組み自体は続けていこうと思っております。事務所から親御様へ何かをお送りするのではなく、従業員さんご自身で好きな形で親孝行に使っていただけるような制度になればと考えております。

外国籍の方とのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?

最初から色々なことが「違う」ということを理解していくことが大切だと思います。日本人同士でもコミュニケーションで齟齬が生まれたりする時があると思うのですが、弊所ではあまり感じませんが、一般的には外国籍従業員を雇用しているとなおのことコミュニケーション齟齬が生じてくると思うのですね。でも、それはある意味で良いことだと思っております。外国籍の方と日々コミュニケーションをとっていることで、「この事項は一歩引いて伝えよう」ですとか「具体的な例を一緒に伝えるようにしよう」というチャットツール含む話し方の工夫しようと思えるようになりました。

そのほかにも、例えば、実際の業務の話で言うのであれば、お客様へのチャット送信は私の方で行っているものが多いのですが、手続きが完了したものなど定形文で送信できるシンプルなものに関してはフォンさんにお願いしている部分もあります。また、ベトナム駐在員事務所顧問においては、ベトナム労働法に関する内容は、フォンさんに顧問先にお伝えする前に行うべき事項をわたくしの方より指示し、その確からしさを報告内容を受けて精査し、その上で、フォンさんより顧問先に回答したりもしています。

その際に、お客様への送信用のチャットと社内で使用するチャットツールは、それぞれ別のツールを使用しています。元々プラットフォームが分かれていることで、報連相・日本語修正等には社内専用のチャットツールしか使わないというふうに、お客様への誤送信を未然に防ぐこともできます。社内と社外とで使用する連絡ツールを明確に分けることで、アクシデントを未然に防ぐだけではなく、外国籍の方にとってもわかりやすく、仕事の生産性が上がるような取り組みや改善策を日々取り入れていますね。

フォンさんを採用されたことで、会社にどのような影響があったかお教えください。

小泉先生 :フォンさんを採用したことで、日本企業のベトナム駐在員事務所の労務顧問まで事業の業域を拡大できたことはとても大きいですね。当初は、国内の外国人を採用している企業様のと取引がメインになると思っていましたが、現地に雇用されている日本の海外進出企業様とも取引が広がったことは嬉しい予想外ではありました。

また、フォンさんを雇用したことで、ベトナム語で触れられる情報量がとても増えましたね。フォンさんを採用する前も、私自身、日本でいうところのベトナムの国税庁や大使館、日本でいう厚生労働省のような立ち位置の役所の情報をチェックしていましたが、フォンさんが入社されたことで、ベトナムにある法律事務所のブログ記事やより鮮度の高い情報をわたくし自身も新たに知り、日々得られるようになりました。現地のベトナム人の弁護士・会計士の先生方などの「今回の法改正ではここを注意した方が良い」といった細かな点まで把握できるようになりました。

鮮度の高い情報は、日本語で検索してもヒットせず、ベトナム語で検索して初めて検索に引っかかってくるものが多いので、フォンさんが入社してくれたことで、わたくしもベトナム語で検索する習慣が付き、そういった最新の情報をよりスピーディーに得られるようになりました。そのおかげで、ハノイに事務所や企業を置いていらっしゃる企業様へ、最新の法改正・それに伴う整備が必要な内容のご提案・支援などを今まで以上に細やかにお伝えできるようになりました。

フォンさんは実際に働いてみて、どのような点に仕事のやりがいを感じていますか?

フォンさん:日本とベトナムの架け橋になれるような仕事を担当できているので、その点にすごくやりがいを感じています。顧問先の1つにハノイに事務所をかまえている企業様がいらっしゃるのですが、そこのベトナム人従業員さんの役に立つ仕事をできているので、そこが一番嬉しいですね。

今の会社の環境はとても働きやすく、私もとても意見を言いやすい環境なので、生き生きと働くことができています。

外国籍の方を採用する際に、気をつけておくべきことはございますか?

小泉先生 :今回、フォンさんを採用させていただいた際に、労働条件通知書を日本語とベトナム語両方で作りました。やはり、採用された外国籍の方の母国語でも労働条件通知書を作成した方が、伝えるべき箇所がしっかりと相手の方にも伝えられます。言語面での配慮は外国籍の方を雇う全ての企業にとって大切なことだと思いますね。

また、社労士の立場からとしては、我々のような外国人雇用を主業務としている社労士事務所に伴走させていただいた方が企業様だけなく、外国籍従業員の方も安心して働けるのではないかと思います。例えば、日本の就業規則は100条以上まであるようなものも多いですが、日本人の方でも100条以上もある就業規則を隅から隅まで読み込む方は少ないと思います。ですが、中には重要な就業規則があり、知らないことで、労使の齟齬によるトラブルに発展してしまう可能性もあります。そこで、特に重要な箇所をピックアップして、ワークブック等のような形式にしたものを外国籍従業員の方に提供するなどしています。

そのほかにも、日本企業では当たり前とされていることが、外国籍の方には通じない場合の背景などもご説明したりしています。例えば、ベトナムの場合ですと、日本では、労働条件の明示を書面で行うことは要求されていますが(労基法15条,施行規則5条)、労働契約については、書面で行うことは、必ずしも要求されていません(労働契約法11条)。

これに対し、ベトナム労働法では,契約期間3ヶ月未満の短期業務を除いて、「書面」での労働契約の締結が義務付けられ、契約書を2部作成の上、労使それぞれが1部ずつ保有することとされています(労働法16条1項)。

そのような働くうえでの文化的な違いを企業様だけで対応していくのは、非常に困難が伴うかと思います。ですので、外国人雇用専門の社労士に入ってもらって、一緒に伴走してもらうことで、外国人従業員のミスマッチや雇用上のトラブルを回避できる可能性が高くなると思いますね。

編集後記

日本企業の海外進出やグローバル化に向けて外国人労務コンサルを展開する中で、「まず自分で一緒に外国人と働かないとお客様に伝えられない」と常に顧客目線の東京国際社会保険労務士事務所様。顧客目線が、社内のコミュニケーションへの気遣いや外国人の働き易さへの配慮にも繋がっていると取材を通じて感じました。最初から自社で、採用から育成・定着まで一貫して行うのは難しいため、社労士など、その道の専門のプロに委託し、社内の育成・定着ノウハウを貯めることも選択肢として入れると良いのではないでしょうか。


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