母国語が異なる相手と共に働く上で大切なことは?【株式会社トラベリエンス】

2020年の東京オリンピックに向け、日本への関心は高まるばかり。ここ10年で訪日旅行者は約3.7倍に増え、年間で約3,119万人(2018年度)の外国人が日本を訪れています。

今回は、訪日外国人と全国の通訳案内士をマッチングしオリジナルツアーを案内する『TripleLights(トリプルライツ)』などの旅行者向けサービスを展開する株式会社トラベリエンス(以下、トラベリエンス) 代表取締役の橋本 直明さんにインタビューしました。外国人スタッフが多く、社内の公用語は英語・日本語の二語だというトラベリエンス。外国人と共に働く上で大変だと感じることなど、お話を伺ってきました!

話し手:株式会社トラベリエンス 代表取締役 橋本 直明(はしもと なおあき)さん

早稲田大学卒業。アクセンチュア株式会社、株式会社リクルート旅行カンパニー(現・株式会社リクルートライフスタイル)を経て、趣味の「旅行」に関わる仕事をしていきたいと、世界一周旅行から帰国後に株式会社トラベリエンスを設立。「たくさんの人達に旅してもらうことで幸せになってもらいたい」をビジョンに訪日外国人旅行者向けサービスを多数展開。

株式会社トラベリエンス 事業内容

 

TripleLights(トリプルライツ)(https://triplelights.com

訪日外国人と全国47都道府県に在住する通訳案内士をマッチング、全国各地で経験できるオリジナルツアーを販売・案内するサービス。英語・中国語など通訳案内士資格の10言語に対応。

映像で見る国内旅行ガイド『プラネタイズ』(https://planetyze.com/en

ガイド養成Eラーニング『通訳ガイドアカデミア』(https://guide-academia.jp/

 

2013年2月設立。『トリプルライツ』を中心に、訪日外国人向けの観光事業を展開。運営しているメディアは全て自社制作し、国内の観光地やその土地でしか体験できない経験・情報を発信している。「旅の新しいスタイルを創る」ことをミッションとし、トラベリエンス独自のサービスで多くの訪日外国人の旅行をサポートしている。

外国人スタッフが多く働いているそうですが、何名在籍されているのでしょうか

現在、弊社の社員数は僕を含めて9名です。日本人は2名、あとはみんな外国人です。国籍はアルゼンチン、中国、タイ、フィリピン、フランス、ドミニカ、アメリカとみんなバラバラですね。みんな母国語が違うので、社内で話すのは英語がメインです。

最初に一緒に働いた外国人の方はどのような方ですか

エンジニアでCTO(最高技術責任者)として勤めてくれているロドリゴです。
初めて出会ったのは、彼が旅行で日本を訪れている時でした。当時、僕は「英語を学びたい日本人」と「日本語を学びたい外国人」を繋げるイベントを開いており、2013年3月に開催したお花見にロドリゴが参加してくれたことがきっかけで出会いました。

彼はアルゼンチンでWeb制作系の会社を経営しており、エンジニアとしての知識も豊富だったので、アルゼンチンからのリモートで一緒に仕事をするようになりました。ちょうどその頃にTripleLightsの構想が固まってきたのでウェブページ制作をお願いしていましたね。その後、彼が日本で住むことになったので、日本語学校に通う間はアルバイトとして、日本語学校を辞めてからは正式に社員として迎えました。

ロドリゴさんと一緒に働くことで苦労したことはありますか

僕は日本語、彼はスペイン語が母国語なので、共通語である英語を使って会話をしていました。お互いにしっかりとコミュニケーションが取れていたので、特に苦労したという記憶はありません。

ただ、話の内容の複雑さによっては、英語だと母国語ほどはうまく表現できないと感じる場面もありました。そんな時は伝えたい内容をシンプルにして何度も話すなど、お互いの理解を深めるために工夫していましたね。都度そうすることで、僕の意図がきちんとロドリゴに伝わっていたので、今まで揉めることもなく楽しんで仕事をしてこられたのだと思います。

橋本さんご自身は現在、英語でのコミュニケーションに不安は感じていないのでしょうか

いや、そんなことはないですよ。僕もまだまだ英語を勉強中です。本格的に勉強し始めたのは1年ほど前からで、最近は英語のパーソナルジムを始めました。休暇中に英単語の辞書を持ち歩いて、1ヶ月間ひたすら英単語を覚えるなんてこともやっていましたね。

大人になって毎日1時間も英語の勉強に時間を割いていると、「なぜ自分の母国語が英語じゃないのか」「なぜもっと子供の頃から英語の勉強をしなかったのだろう」と思ってしまいます。

英語で自分の考えなどが伝わらず、もどかしい思いをすることもありますか

もちろんあります。日本語だと100%伝えられるとすると、英語だと伝わって70〜80%と感じることもあります。自分の思いが全て伝えきれないので何度も繰り返し伝えますが、それでも伝わりきれていないのではないかと不安に感じる時は「こちらの意図を汲み取ってくれているだろう」と社員を信頼するようにしています。英語でのコミュニケーションは僕自身の努力も必要なので、毎日英語の勉強に励んでいます。

外国人社員と共に働くにあたって、会社として工夫している制度などはありますか

弊社では【1ヶ月休暇】という日本では珍しい休暇制度を設けています。
もともとは、僕自身が旅行好きなので「長期で休みを取りたい」とこの休暇制度を考えたわけですが、海外(特にヨーロッパ)では1ヶ月ほどの長期休暇を取る制度は当たり前のように取り入れられています。

弊社は外国人社員が休暇を利用して母国に帰省する人もいるので、この1ヶ月の休暇制度を利用して母国で家族との時間をゆっくりと楽しんでもらえたらと思っています。1週間程度の休みだと国や場所によっては休みの半分くらいを移動に費やしてしまうので、ゆっくり過ごすことが難しいんですよね。

1ヶ月休みを取ると聞くと「休日が多い会社なのか?」と思われがちですが、そういう訳ではありません。ゴールデンウィークなどの休みに出勤し、年間の祝日や有給をまとめて取得すれば1ヶ月ほどになるんですよね。僕も近々1ヶ月休暇を取得する予定ですが、今回は沖縄の離島でのんびり読書をして休暇を楽しみたいと考えています。

年に1度旅行できれば、10年で10ヵ国も旅することができます。これからこの休暇制度がどんどん広がって日本で当たり前になってくれればいいなと思います。

トラベリエンスの「たくさんの人達に旅してもらうことで幸せになってもらいたい」というビジョンが社員の休日制度にも反映されているわけですね

僕は「旅行は誰にとっても特別なもの」だと思うんです。学生時代に行った卒業旅行はどこに行ってどんなことをしたか、1日1日の記憶を結構細かく覚えていますよね?でも、ここ1年間で友達と何回レストランで食事したか覚えていますか?旅行に行くとなると、事前に色々と調べて計画したりお金を貯めたり、旅行に行くまでの時間も楽しむことができますよね。旅行での時間の使い方とレストランで食事をする時間の使い方は違うと思います。

もし、毎年1ヶ月の休みがあったらきっと旅行に行くと思うんです。そうすれば家族との濃密な時間を過ごすことができるし思い出も増えます。社員には積極的に1ヶ月休暇を取得してもらって、たくさん旅をして幸せになってもらいたいですね。

これからも外国人と働きたいと考えていますか

弊社のサービスは訪日外国人旅行者に向けたものです。今年日本を訪れた旅行者は来年は別の国を選ぶことが多いので、来年も日本に旅行することはほとんどありません。それを踏まえ、事業をスケールさせるために、これからはこのサービスを世界に広げていきたいと考えています。

世界各国の旅行先で、旅行者と現地に住む観光ガイドを結び、その国でしか体験できない特別な旅を提供できれば嬉しいですね。世界にサービスを広げれば、これからも多国籍の方々と一緒に仕事していくことになりますし、是非そうしたいと考えています。

また、これまでの外国人採用は日本語が話せる(理解できる)人を採用してきましたが、今後は日本語が分からない外国人も採用していこうと考えています。「日本語ができなくてOK」と採用基準を変えるだけで、採用のハードルはぐっと下がって優秀な人を採用できますから。5年後には社員数40名を目指したいです。

これから外国人社員を採用したいと考えている会社に何かアドバイスはありますか

外国人採用を検討する際、既存社員とのコミュニケーションを考えると「日本語が話せる外国人」が採用基準になってくると思います。でも、日本語が話せて優秀な方は人数が少ない上に、大手企業に採用されてしまいがちです。中小企業が外国人採用をするには発想を変えなくてはなりません。

日本語が話せない外国人の採用をおこなうには、社内体制の見直しも必要になってくるでしょう。例えば、公用語を「英語」とした外国人社員チームを作るのもいいかもしれません。そのチームを束ねるリーダーが日本語も話すことができれば、他の部署との打ち合わせなども問題がありません。日本語が話せるリーダーが1人でもいれば、そのチームでは「日本語は話せないが優秀な外国人」を採用することができるので、採用基準を満たす対象者が大幅に増えるでしょう。優秀な外国人はたくさんいらっしゃるので、このようなチーム作りを試みても面白いかもしれませんね!

編集後記

旅行が趣味で世界一周旅行を経験された橋本さん。英語でのコミュニケーションには全く問題なく日々仕事をされているのだと思いながら取材させていただきましたが、毎日英語の勉強を続けられていること、そして自分の思いが100%伝えきれずもどかしい思いをされていることを知り驚きを感じました。

日本人の労働者数が年々減少する中、外国人労働者の採用はどの業界でも必須になってくるでしょう。その時代の変化に対応するには、日本人の語学力を上げる努力が必要。そして、これからますます外国人採用市場は広がり優秀な外国人を採用することが難しくなることを意識しなければなりません。外国人採用をご検討中であれば、優秀な人材を採用できるうちに採用活動を始めていきたいですね。