日本全体で外国人労働者の受け入れが進められると同時に、外国人留学生を雇用する中小企業が増加してきています。外国人留学生は日本の大学や専門学校で勉強し、複数の言語を話せる人も人材もいるため、海外に事業を展開したいと考える企業にとってはぜひ採用したい人材です。しかし、外国人留学生の受け入れ体制態勢が整っていない状況で彼らを採用してしまい、採用後、外国人留学生が活躍できないまま企業を去ってしまうケースも少なくありません。
そこで今回は、賃貸・売買・投資など、不動産に関わる総合的なサービスを提供している株式会社エヌアセット 代表取締役 宮川 恒雄さんに「外国人留学生を新卒採用する際に大切なポイント」についてインタビューしました。外国人留学生の採用を検討している企業の担当者の方はぜひ参考になさってください。
話し手:株式会社エヌアセット 代表取締役 宮川 恒雄(みやがわ つねお)さん
1971年 京都府生まれ。1994年に神戸大学を卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。1999年、株式会社ノエルに入社。同社のジャスダック・東証二部への上場に貢献した後、2009年にMBOにて株式会社エヌアセットの代表取締役に就任。2011年に最初の海外拠点としてN-ASSET Vietnam Co.,Ltd.を、2014年には2拠点目となるN-ASSET(Thailand) Co.,Ltd.を設立した。創業地川崎市高津区エリアにおいて、不動産サービスを軸とし、企業主導型保育園の運営やシェアオフィス事業事業など暮らしに関わるサービスを展開している。
会社名:株式会社エヌアセット (https://www.n-asset.com/)
創業:2008年9月 従業員人数: 82名(うち外国籍 3名)
海外拠点:ベトナム、タイ(2020年現在)
外国人採用歴:2017年 営業部 中国出身者、2019年 営業部 ベトナム出身者、2019年 管理部 中国出身者
事業内容:神奈川県川崎市高津区をコアとした不動産管理事業、サブリース事業、賃貸仲介事業 売買仲介事業、建築企画実務 資産コンサルティング 建物管理事業
創業は2008年。神奈川県川崎市溝の口を中心に事業を展開する不動産会社。『”ひと”の「夢」、「安心」、「充実」の実現に永続的に貢献します。』という理念のもと、”ひと”が幸せに生きるための手段として、賃貸・売買・投資など、 資産や暮らしの総合的なサービスを提供している。
御社の事業ビジョンと事業内容をお教えいただけますか?
弊社は『”ひと”の「夢」、「安心」、「充実」の実現に永続的に貢献します。』という理念のもと、目指している二つのことがあります。ひとつはエヌアセットグループとして目指している「生涯顧客サービスの実現」、もうひとつはエヌアセットとして目指している「街の価値向上の実現」です。
まず、1つ目の 「生涯顧客サービスの実現」 については、例えば、大学を卒業したばかりの社会人の方が、東京で家探しをしていたとします。そのときに我々を頼っていただけた場合は、まずはその方の希望条件に合う家を仲介します。その後、その方に家族ができて、今度はマンションを買いたいとなったら、マンションの仲介を、海外に転勤になったので家を違う人に貸し出したいとなったら管理業務をと、生涯に渡って不動産を通じたサポートを提供しています。資産や暮らしに関するサービスであれば幅広く対応しています。
2つ目の 「街の価値向上の実現」 とは、あらゆる人が住んでみたいと思う街になれるか、その街に住み続けたいと思う人を増やせるか、街全体の魅力をさまざまな方法で伝える活動です。街の良いところを知ってもらうイベントの開催や、住民にとって有益な情報の発信をすることで、街の価値を高めるということにチャレンジしています。
初めて外国籍の方を採用されたのは、いつ頃でしょうか?
2017年です。林同財(りん どうざい)という中国福建省出身の社員を採用したのですが、彼は他の日本人新卒と同じように新卒向けの求人サイトを経由して弊社に応募してきてくれました。林は日本語、中国語、英語の三ヶ国語が話せる非常に優秀な人材で、面接時に一人目の外国人社員になって弊社で活躍したいという思いを話してくれました。その話を聞いて、彼なら弊社で活躍してくれるに違いないと思い、採用したんです。
その後、2019年にはベトナム出身の方と中国出身の方を採用しました。ベトナム出身の方は、ベトナムにある日系人材紹介会社経由で紹介してもらいました。現地法人の社長が私の知り合いで、林の事を彼に話したら「良い人がいるよ」と紹介してくれたことがきっかけです。また、中国出身の方は、人材紹介会社を利用して採用しました。外国人向けの寮を担当できる外国人が欲しかったので、初めて外国人材の採用計画を立てて採用した形になります。
外国籍の方を含めた組織作りで苦労した点はありますか?
チームというよりも、林本人が苦労を感じた部分が大きかったと思います。不動産業界は不動産会社同士でのコミュニケーションが活発なのですが、早口な人がとても多いのです。電話越しかつ、早口なので聞き取りにくいうえに、外国籍の方が話を伝えようとしても、余裕を持って聞き取ろうという基本姿勢がない方が多いです。まずは言語の壁という部分でストレスを感じていたようでした。
また、当時は外国人に特化した仲介サービスを打ち出していなかったので、日本人のお客様に対しても積極的に接客をしてもらっていました。稀にではありますが、お客様のなかには「日本人に接客してもらいたかった」という方もいらっしゃったようで、それに対して林本人が思い通りにコミュニケーションできずに悔しい思いをした部分はあったかと思います。母国語でコミュニケーションが取れないストレスはとても大きかったでしょう。
外国籍の方も含めたチームづくりで、大切にされていることはありますか?
当時、林を担当していたマネージャーの話だと、1on1でのコミュニケーションを大切にしていたとのことです。国籍関わらずだと思うのですが、林の場合は一人目の外国人社員ということで、ロールモデルとなるような先輩社員がおりませんでした。なので、自分なりにお客様や他の不動産会社とのコミュニケーションを試さざるを得ない状況だったので、他の日本人社員と比べて壁にぶつかりやすかったと思います。それで、林本人も落ち込むことがあったようなので、根気強く声かけをして、意欲が枯れないようにしていたと聞いています。
本人が比較的自分をさらけ出してくれていたので、1on1は今の状態から理想の状態になる迄の課題発見の時間でした。また、ただ『頑張れ』だけでは、本人のモチベーション維持も難しいと感じられたので、彼自身のやりたいこと、夢を聞き、当時の業務と関連付けることも定期的に行いました。
・自身のコンディションを自分の言葉で話してもらう(日本語力向上の意味も兼ねて)
・今苦戦しているのはなにか
・自分が実現したいことはなにか
そのほかにも、マネージャーが林と1on1で話す機会を通常よりも多くとっていたと聞いています。当時はまだ、一対一でのミーティングは仕組み化もされていなかった時期なのですが、マネージャーがこまめに二人だけのミーティングを設定し林のなかで消化不良が起きないように工夫していたとは聞いていますね。
外国籍の方を雇用する際に、気をつけていることはありますか?
まず、不安を不安のままにして放置させないことです。弊社では、1対1で外国籍社員と話す機会を設けることで、外国人社員が とても良い結果になったと思います。 抱えている不安を未解消のままにさせないことを心掛けてきました。
また弊社の場合は、初めての外国人採用が新卒採用だったこともあり、日本人も含めて複数人を採用し、彼らが弊社に同時期に入社してきました。それが彼にとって、とても良い結果になったと思います。一緒に仕事を学んできた同期の存在があったからこそ、辛い時に仲間の存在が下支えになっていたのではないかと思います。もし初めて外国籍の方を採用されるのであれば、日本人でも構わないので複数人を採用し、同期がいる環境を作ることができればよいかもしれません。
外国籍の方を雇用したいと考えている不動産会社の方も多いと思うのですが、外国人雇用で大切にすべきことはありますか?
現場への理解と、しっかりとした事業戦略のストーリーが描けているかどうかが重要だと思います。採用しようと思えばできると思うのですが、そもそもなぜ外国籍の方を採用したいのかを明確にすることから始めることが大切だと思いますね。
外国人を採用したい不動産会社は、外国籍の方にお部屋を仲介するサービスを展開したいという理由をお持ちの方が多いと思います。しかし、外国籍の社員をただ採用しただけでは、お客様はなかなか増えません。会社として外国人向けのサービスを広げたいという認識を持たないと事業として成立しないので、契約数も増えず、結果も出なかった、ということが起きてしまうと思います。もし、外国籍の方を採用されるのであれば、事業戦略のストーリーを明確に描いたうえで外国人採用に踏み切られた方がよいと思います。
また、林の場合もそうですが、日本人しかいない会社のなかに1人だけ外国籍の社員として入社した場合、文化や言語の違いが必ず出てきます。そのような点をフォローできるかが大切になってくると思いますね。彼らの不安をこまめにサポートできる環境があるかことも大切だと思います。
最後にこれから外国籍社員を採用したいと考えている会社に何かアドバイスがあればいただけますか?
国籍関係なく能力の高い方が非常に多いので、積極的に採用されることをお勧めしますね。実際の外国籍の社員採用で気をつけた方が良いポイントについては、日本人が世界的にみて非常に特殊だと理解することが大切だと思いますね。今まで触れ合ってきた外国籍の方は、どこの国の方でも、ある意味共通するところがあったんですね。それと比べると、日本は逆にとても変わっているので、我々、日本人が「変」だと思って動かないと外国籍の方を採用するのは難しいかもしれないですね。
今後は、不動産業界に限らず、たくさんの外国籍の方が日本にいらっしゃると思います。そういった外国籍の方々向けにサービスを展開をしていくためには、 日本が世界の常識とは異なることを理解して事業やサービスを展開した方がよいと思います。
そのような状況を踏まえ、今後の会社のビジョンなどを考えたうえで、外国人採用が必要だとなれば、外国籍の方を採用された方が会社にとってよりよい影響になるでしょう。
編集後記
グローバル展開の先駆けとしてベトナムでの事業展開が軌道にのり、いつか国内でも外国人向けの事業にもチャレンジしたいと考えられたエヌアセット様。一人の外国籍留学生の出会いから外国人向けの事業がスタートし、現在では部屋探しのサポートが、多くの海外出身のお客様に高く評価されています。サポートをしている外国籍社員の活躍の背景には、社内の1対1のコミュニケーションによって成長が促進されていました。
外国人の採用経験がない企業からすると、外国人から採用エントリーが来ると、会うか悩まれる場面もあると思いますが、国籍や年齢問わず候補者の魅力を見つけ、採用する考え方が将来の事業展開の新たなヒントに繋がるのではないでしょうか。
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