年々増加している訪日旅行者。そんな訪日旅行者にとって居心地が良く、リーズナブルに宿泊できるホステルは人気が高い宿泊施設の1つです。ホステルで生まれるコミュニケーションによって旅行者はさらなる経験や知識を得ることができ、日本旅行そのものの充実度が高まっていきます。
今回は、おしゃれで人気が高いホステルを4店舗経営されている株式会社FIKA(以下、FIKA)代表取締役社長の福山 大樹さんとUNPLAN Shinjuku マネージャー デリス・グリーンさんに外国人採用についてインタビューしました。外国人と一緒に仕事をする上で大切にしていることとは? また、採用段階でどんなことを意識して選考しているのか?など、多くの外国人スタッフが活躍している企業での働き方についてお話を伺ってきました!
話し手:株式会社FIKA 代表取締役社長 福山 大樹(ふくやま ひろき)さん
東京大学卒業。新卒でソニー株式会社に入社。退職後、2005年にウェブマーケティング会社を設立。会社を売却した後にインバウンドの関連事業を行うFIKAを設立。訪日外国人旅行者をターゲットにしたホステル事業をメインとし、現在4軒のホステルを運営している。
話し手:株式会社FIKA UNPLAN Shinjuku マネージャー デリス・グリーンさん
1992年アメリカ・ワシントン州生まれ。高校生の時から日本のポップカルチャーに憧れ、2016年に日本来日。UNPLAN Kagurazakaのレセプションスタッフとして働き始める。2018年、hostel DEN立ち上げに伴いマネージャーとして異動。2019年、UNPLAN Shinjukuのマネージャーに就任し現在に至る。
株式会社FIKA 企業情報
◆UNPLAN Kagurazaka(https://unplan.jp/kagurazaka)
伝統的な町並みだけでなく、現代の東京の風景も楽しめる神楽坂エリアにあるホステル。シンプルで無国籍なデザインを基調とした落ち着きのあるインテリアで統一された空間でゆったりとした時間を楽しむことができる。
◆UNPLAN Shinjuku (https://unplan.jp/shinjuku)
大都会東京の文化を感じられる新宿エリアにあるホステル。地下1階に夜間営業のバーを備えており、夜の東京観光を楽しむ拠点としても人気が高い。
◆UNPLAN Village Hakuba(https://unplan.jp/hakuba?lang=ja)
長野県白馬山麓に2019年12月オープンしたホステル。宿泊に加えフロント機能も併せ持つメイン棟と、宿泊専用施設の2棟から成る。白馬栂池エリアの雄大な自然と触れ合える初のリゾート施設。
◆hostel DEN(https://hostel-den-jp.book.direct/ja-jp)
「ゲストに自分の家のようにリラックスした時間を過ごして欲しい」というコンセプトを持ったホステル。また、日本初のムスリムフレンドリーなホステルとして、ゲストが無料で利用できる礼拝室も併設されている。
「訪日観光客が楽しく快適に旅行できる環境を創ろう」 「サービスを創り出せる集団になって喜びと驚きを生み出そう」という2つのMISSIONのもと、外国人旅行者をターゲットにしたホステルを経営。ホステルにはカフェやバーが隣接していたり、スタッフによる様々なイベントも開催されている。今後は、2020年に高まるインバウンド需要に対して、快適で過ごしやすいホステルを提供し、2024年までに20店舗を出店する予定。ホステル経営の他にも、ホステルインバウンド・マーケティング支援、空間企画・プロデュース、宿泊アプリケーション開発なども手掛けている。
起業するにあたり、福山さんはなぜ外国人向けの宿泊業界を選ばれたのでしょうか
福山さん:まず、海外の人たちに”日本旅行を楽しんでもらいたい”という思いがあって、楽しい日本旅行を送ってもらうために、何かしらの形で外国人旅行者と関わりを持とうと思いました。
FIKAを立ち上げる際に観光地など情報を得られるインフォメーションカウンターを作ろうかと考えましたが、ビジネスの観点で見ると収益を得ることが難しいと断念しました。収入があるビジネスを考えた時に「宿泊ビジネスが面白いかな」と考え、今の業態を選んでいます。
貴社では外国人スタッフが多く活躍されているそうですが、外国人採用を始めたきっかけは何だったのでしょうか
福山さん:弊社のサービスは基本的に外国人のお客様を主なゲストにしています。外国人の人たちが受けたいサービスを考えるにあたって、自分たち日本人だけで考えるのではなく、スタッフに外国人がいた方が外国人目線での発想も得られるのでないかと考え、外国人採用をすることにしました。
初めての外国人採用はいつでしょうか
福山さん:友人からの紹介でデリスを採用したのが初めての外国人採用です。最初、1店舗目をオープンした時にデリスともう1人外国人スタッフを採用し、その後徐々に外国人スタッフが増えていきました。外国人社員の知り合いや後輩の繋がりで色んな人を連れてきてくれたりしてメンバーが増えていったんです。
現在は、パートやアルバイトを含めて80名くらいですね。そのうち1/3くらいが外国人です。外国人スタッフは日本語と英語、どちらも話していますね
デリスさんが日本で働きたいと思ったのはなぜですか
デリスさん:私は学生時代から日本の音楽や芸能人が大好きで、高校と大学の在学時に日本に留学しました。実際に日本で生活してみるうちに、より一層日本の文化への興味が深まり、自分にとって居心地が良い国だと感じていました。
留学が終わると「いつかまた戻ってきて日本に住みたい」という思いが日に日に強くなっていきました。ただ、「日本で働きたい」という思いはあったものの「何がしたい」というところまで見つかっていませんでした。
そんな時に、私が在学していたカナダの大学に、たまたま福山の後輩が留学してきました。次第に仲良くなり、「日本で働きたいと考えている」と話したところ福山を紹介してもらい、日本で働くチャンスを得ることができました!
貴社に入社しようと思った理由は何ですか
デリスさん:大学卒業後は日本の企業への就職を希望していたのですが、英語の先生など英語しか使わない仕事は嫌だったので、日本語も英語も活かすことができる仕事を探していました。
英語も日本語も両方活かせる仕事は何かと考えた時に、宿泊業ならどちらの語学も活かせると考えました。ホテルではなくホステルを選んだのは、古い企業体質ではなく、柔軟性があって自分が働きたいように働けるのではないかと思ったからです。
デリスさんは現在どのような業務を担当されていますか
デリスさん:UNPLAN Shinjukuでマネージャー職の仕事をしています。仕事内容はレセプション(受付)、清掃、採用活動、シフト調整、オペレーション改善など業務内容は多岐にわたっています。
入社後すぐにマネージャーになった訳ではなく、フロントスタッフの仕事を続けていくうちに評価していただいて今の役職に就いています。マネージャーになった時は責任やプレッシャーが大きいと感じ不安はありましたが、ステップアップできたことはすごく嬉しかったです!
外国人をマネジメントする時に大切にしていることはありますか
福山さん:僕は日本人の働き方が必ずしも”効率が良い働き方”とは思っていないので、外国人の働き方から多くのことを学んでいます。外国人スタッフが「どういうことを考え、どういう働き方をするのか」をじっくりと観察したり、本人からヒヤリングすることを心がけています。
例えば、日本人は”キリの良さ”を重視するところがありますよね?「(時間を超えても)キリのいいところまでやって今日の仕事を終えよう」など。時間給をもらっている外国人スタッフは仕事が残っていても時間通りに仕事を終えるので「どうしてキリのいいところまで仕事をしないの?」と聞いてみると、そのスタッフは「今日やる必要はないと思った」と答えていました。
仕事というものは、だらだらとすることが決して良いことではないし、時間を意識しなくなると効率性は落ちてしまう。「日本の働き方と合わないので、日本のやり方に合わせてくれ」というのではなく、外国人が日本の働き方と合わないことが出てきた時に「どうしてそういう風にするのか?」と聞いてみて、やり方や感じ方の違いを認識しながら外国人のマネジメントをするようにしています。
外国人のマネージャーに対しては、会社としての方向性や条件を付けるということはありますが、基本的にスタッフに対してはそれぞれのマネージャーが自由にマネジメントするようお願いしています。外国人が考える効率の良いやり方を尊重できればと思っていますので。
採用する時に気をつけていることはありますか
福山さん:弊社にご入社されてハッピーな仕事ができるかどうかが大切だと思っているので、その方の仕事観と会社が提供できるものがフィットしているかどうかは面接でみるようにしています。
またホステル業はサービス業なので、コミュニケーション力、人当たりの良さは重視します。弊社はまだまだこれから成長していく段階の会社なので、会社の価値観やビジョン、在籍しているメンバーの考え方に合うかどうかという点も面接段階で見ています。
弊社には自分でアイディアを出していく発信力があり積極的なタイプの人材が集まっているので、マニュアル通りきちんと働きたいという思考の方には入社いただいても社風が合わないと思うんですよね。
デリスさん:私は外国人アルバイトの採用がメインなので、何を勉強してきたかよりも人柄や笑顔を重視しています。また、仕事のイメージと実際の仕事内容が合っているかどうかも大事なので、面接時には実際の仕事内容をきちんと伝えてギャップがないかどうかは確認するようにしています。
例えば、英語しかできないけどレセプションの業務がしたいと希望される方がいたのですが、「レセプションは日本語も英語も両方話せないとできない業務です」ときちんとお伝えして、朝食や清掃の仕事はどうか?と勧めたりもしたこともありました。
求人票の情報だけでは、弊社の業務内容を全て理解してもらうことは難しいと思いますので、面接時にしっかりと応募者の要望も聞きながら、適切な業務の振り分けができるように心がけています。入社後にギャップを感じることがないように面接での会話を大切にしていますね。
今までに外国人社員と仕事をする上で苦労したことはありますか
福山さん:大変だと思うことはあまりないですね。面接の段階で人柄はしっかりと見ているし、採用時に”1日体験”を設けているので、実際の仕事を体験してから入社してもらっています。入社前に段階をしっかり踏んでいることによって、入社後にお互い合わないと感じることはあまりありませんね。
外国人スタッフを迎えるにあたり、会社として実践されていることはありますか
デリスさん:現場スタッフはシフト制なので新しく入った人がスタッフ全員と顔を合わせるのはなかなか難しいんです。弊社では「Slack(スラック)」というアプリを使っているので、新しいスタッフが入る時は必ずアプリ経由で私からご紹介したり、ご本人に自己紹介をしてもらっています。なるべく新しく入った方がすぐに馴染めるような環境を作るように心がけています。
また、定期的にスタッフの面談をしているので困っていることはヒヤリングしています。
現状不満を感じているスタッフは少ないのですが、「こういうことがやりたいのに実現出来ていない」という意見が上がってくれば、実現できるようにサポートしています。
今まで外国人社員からの発案で生まれたイベントなどはありますか
デリスさん:最近、神楽坂のお店で実現したことなのですが、神楽坂のスタッフの中にDJをやっていたり絵を描いたりと芸術系が好きなスタッフがいて、彼の発案で店舗のカフェを無償で貸し出すギャラリーを始めました。今は美術大学の学生さんの絵を展示する場として使ってもらっています。
あとは、ネイティブのアメリカ人スタッフが他のスタッフに英語を教える英語レッスンを開いたり、他にも館内宿泊者に向けてスタッフ発案の様々なイベントも開いています。例えば、韓国人直伝キンパ(韓国海苔巻き)を作る会、お酒が好きなスペイン人スタッフがお酒のテイスティングをする会などがありますね。スタッフ発信のイベントがたくさん形になっています!
ありがとうございました。それでは、最後にこれから外国人社員を採用したいと考えている会社に何かアドバイスがあればいただけますか
福山さん:日本にいる外国人には2つのパターンがあると思います。日本の方が稼げるからという”金銭的”な理由と、日本で住みたくて日本で働くことを選んだという”単純に日本が好きだから”という理由です。後者の場合の方には「日本人よりも日本人らしい人が多いな」と感じることがよくあります。日本が好きで来日した人は、「日本の文化を学びたい!日本の文化を受け入れよう!」という姿勢が身に付いているので、日本の文化にフィットしやすいと感じています。一緒に働いてみると相性の良さを感じることが多いですね。
外国人と一緒に仕事をしていると、仕事の仕方も違えば背景にある考え方も違います。日本のやり方を押し付けようとするのではなく、外国人の考え方の違いを理解し尊重するようなことをやっていけばうまくいきやすいと経験から学びました。社内の”働き方改革”を進めるには、日本人とは違った働き方を見ることも大切です。外国人の働き方から学ぶことはたくさんあるので、外国人採用は会社が柔軟に変わっていけるチャンスになると思いますよ!
これから日本で働きたい外国人に何かアドバイスはありますか
デリスさん:日本企業で働くには日本人や、自分の母国とはまた別の外国人と働くことになります。日本で働きたいと思っている人は元から考え方が柔軟だと思いますが、いつも”自分が正しい”と思うのではなく、他の人の考え方も尊重することが大切です。「アメリカ人にはこれは出来ないが、日本人にはこれが出来る」といったように、日本人から学ぶこともたくさんあるのです。
もし、逆に日本人の働き方が”効率的ではない”と感じた時は、恐れずに勇気を持って自分の意見を伝えるべきだと思います。それが会社や同僚のためになることがありますよ。
編集後記
異文化で生まれ育った人が同じ場所に集まって仕事をする。そうするには必ず文化や考え方の違いが生まれます。FIKAさんの社風に根付いている「自分の考えだけが正しいと思うのではなく、相手の意見を参考にして尊重する」という考え方は、外国人採用には欠かせないことだと感じました。
最初は異なる宗教観や文化で過ごされた外国籍の方と共に仕事をしていくことに不安を抱くこともあるかもしれません。ですが、そこで「外国人社員は考え方が合わないから…」と外国人社員採用を踏みとどまるのではなく、新たな考え方を取り入れるチャンスとして、是非前向きにご検討くださいね。