こんにちは、jopus.biz編集部です。今回は2019年3月5日に株式会社ゴーリストにて開催されたイベント「人事・経営者向け|外国人を採用する企業に聞く『外国人採用』のポイント」の様子をお届けします。
当日、登壇したのは株式会社インタースペース・人事部の長谷川武蔵氏、Career Fly株式会社・代表取締役の大野理恵氏、株式会社ゴーリスト・代表取締役の加藤龍氏の3名です。実際に外国人採用に携わってきたゲストがそれぞれの視点から「外国人採用」のポイントを紐解きます。
1.外国人を採用するためにはバックボーンを理解しよう
1-(1).外国人を理解するために日本の感覚を捨てる
1-(2).海外の国策や地理的影響を考える
2.外国人女性を採用することで広がる価値観
2-(1).新たな価値観を生む「外国人女性」が日本企業にあたえる好影響
2-(2).高度人材・外国人女性のキャリア志向
3.外国人を採用して起こった変化
3-(1).定量的なリターンよりも定性的なリターン
3-(2).それぞれの文化を尊重した1対1の接し方
4.編集後記
1.外国人を採用するためにバックボーンを理解しよう
長谷川氏は、これまで人事採用担当として20か国以上の求職者と面談した経験をもとに「外国人採用には心理学のフレームワークを用いて考えることで理解がしやすくなる」と実感したそう。イベントでは、長谷川氏が外国人採用で活用する2つの心理学のフレームワークについて説明しました。
株式会社インタースペース
人事部
長谷川 武蔵 氏
はせがわ・むさし/臨床心理士を目指し勉強していたが、新卒でエージェントとして、転職者のキャリアカウンセリングと組織支援を行う。現在は人事として採用、研修企画、制度設計、ピープルアナリティクスなどを担当している。社会人になったタイミングでHR系NPO法人「SiP」にジョイン。大学での講演やベンチャー企業での研修設計、HRコミュニティの運営を行う。「人」に関する興味が強く各種カンファレンスへの参加や各種資格を取得し、数多くの書籍や論文などから知見を得る。
1-(1).外国人を理解するために日本の感覚を捨てる
長谷川氏が外国人採用で活用する心理学フレームワークの1つめは「マズローの欲求5段階説」です。
- 自己実現の欲求:能力を発揮して造像的活動をしたい
- 承認欲求:自分を認めたい、他者から価値を認められたい
- 社会的欲求(所属と愛の欲求):他者と関わりたい、集団に属したい
- 安全の欲求:身の安全を守りたい
- 生理的欲求:生命を維持したい
これは人間の欲求は5段階に進んでいき、低次の欲求が満たされると、高次の欲求へ上がっていくというものです。では、長谷川氏はこの心理学フレームワークを外国人採用でどのように役立てているのでしょうか。
「まず前提として『母国を離れ、他国での就業を決断する』ことは並ではない決意だととらえていただきたいです。日本人が『転職するぞ!』と決断することよりも、はるかに勇気や行動力、熱い思いが必要だと思います。ではなぜ彼らは日本で働きたいのでしょうか。彼らにも色々な欲求があると思いますが、日本人の感覚では共感できないことが多くあります。例えば『排気ガス問題で空気が汚いため母国を離れたい』『母国は治安が悪く身の危険を感じる』という理由や、『母国はIT産業の発展に力を入れていないため日本でIT技術を学びたい』といった理由があります。日本にいるとあまりなじみのない欲求ですが、この欲求をまず認めることが、外国籍の方を理解する一歩になります」と長谷川氏は語りました。
そして「外国籍の方と接するときはまず、日本の感覚を捨て、さまざまな欲求を認めることでより理解を深めることができる」と続けました。
1-(2).海外の国策や地理的影響を考える
長谷川氏が外国人の採用で活用する心理学フレームワークの2つ目は「ブロンフェンブレンナーの生態学システム理論」です。
- 人間の発達過程は個人と環境との相互作用によって形成される
- 特定の発達経過はその人物の周囲にある両親、友だち、学校、職場、文化などから受ける影響の結果である
長谷川氏は、この理論を要約すると「相手の国を理解すること」だと話しました。外国人採用において、候補者と会う際には相手の人格形成に、国策や地理的な影響が関係していることを理解しておくことが大切です。改めて応対する国籍の方に会うときは国策や地理的な情報の下調べをしておくと、ある程度バックボーンについて仮説が立てやすくなり、そうすることで、より正確に候補者を理解することができると話しました。
2.外国人女性を採用することで広がる価値観
外国人の採用では、女性からのエントリーも少なくありません。Career Fly株式会社・代表取締役の大野氏は、日本で働きたい外国人女性の採用は、企業にとって大きなメリットがあると話しました。
Career Fly株式会社
代表取締役
大野 理恵 氏
おおの・りえ/アパレル企業でキャリアをスタート。人材派遣業界へ転身し、約10年、人材紹介や派遣ビジネスにコンサルタントとして携わる。2015年Career Fly株式会社を立ち上げ、独立。 「違いを、当たり前に!」をミッションに、日本企業文化の多様性ある文化形成実現のため外国人女性の人材紹介事業を行う。40か国3,700名の日本で働きたい国内外の外国人女性の日本就業を全面サポート。外国人女性と企業のより良いマッチングを実現することで、人材不足解消に貢献するとともに、既存文化変革によりイノベーションを起こす機会を創出している。
2-(1).新たな価値観を生む「外国人女性」が日本企業にあたえる好影響
大野氏は、日本で働きたい外国人女性のどのようなところに注目しているのでしょうか。
「日本では、女性の活躍推進に取り組んでいる企業が増えているものの、女性の管理職登用は決して多くありません。また、外国人採用に取り組む企業も増えていますが、ごく一部にとどまっているのが現状です。そのため、これまでの日本企業では外国人女性をほとんど雇用していませんでした。日本企業が外国人女性を採用するにあたっては、日本人を受け入れる感覚や構え方とまったく異なるでしょう。さまざまなジェンダーや思考、行動傾向の外国人女性を採用することは、企業の多様化につながる有効な手段だと思っています」
多様性のある企業は「違い」を積極的に活かすことを得意とする傾向にあることから、変化しつづける環境や顧客ニーズに対応し、企業を優位に導くことが期待されます。この点も、外国人女性を採用する大きなメリットであるといえるでしょう。
2-(2).高度人材・外国人女性のキャリア志向
ここで、来場者から「女性は結婚、出産などのライフイベントがあるので、採用後あまり長続きしないのでは?」という質問が挙がりました。
「高い学歴や社会経験のある『高度人材』と呼ばれる女性は、子どもが生まれてから産休や育休で長期休暇をとる方が少なく、出産して1、2か月で職場に復帰したいという方が多いです。長期の休みはキャリアのブランクになってしまうため、早く仕事に戻りたい、復帰したいという気持ちが強いです。女性管理職の登用をKPIに掲げている企業も多いなかで、日本の女性社員に管理職のオファーを出したら断られたという話をよく耳にします。しかし、外国人女性はマネージャーのポジションで仕事をするために転職活動を始める方もいます。明確なキャリアビジョンをもつことが多い外国人女性は、女性管理職を検討している企業に特におすすめです」
外国人女性の採用に積極的でない企業が多いなか、高度人材である外国人女性は、実際には活躍が期待できる可能性が高いことがわかりました。キャリア志向が強い外国人女性は、女性活躍推進を掲げる企業を中心にさらに注目が集まりそうです。
3.外国人を採用して起こった変化
最後は、株式会社ゴーリストの代表取締役である加藤氏です。実際に外国人メンバーを採用したときに起こった社内の変化について話しました。
株式会社ゴーリスト
代表取締役
加藤 龍 氏
かとう・りょう/「神様にフェイント、自然体、人生すべてネタ」
新卒第1期生として株式会社セントメディアへ入社。新規事業、人材派遣・紹介事業に従事。2005年、グループ会社の代表に就任し、営業職に特化した人材紹介事業を展開。その後IT・Web領域の新規プロジェクトを複数立ち上げ、技術系ベンチャーの経営コンサルなどを経て2010年に退職。2011年、株式会社ゴーリストを創業。HRビッグデータ事業、グローバルHR事業を展開。2017年より外国人メンバーを採用。
3-(1).定量的なリターンよりも定性的なリターン
現在10人ほどの外国人メンバーが在籍するゴーリストには、実際にどのような方が働いているのでしょうか。
「まず、弊社にはインド人のエンジニアがいます。インド人は数学に強いらしいとぼんやりしたイメージがありましたが、採用してみるとその実力におどろきました。統計学を学んだあと、インドの某日系大手通信会社に勤めていましたが、大手以外で働きたいという理由で日本を訪れ、今は弊社でAI開発を担当しています」
当初は、AI開発のためにスキルのあるエンジニアが必要だったため、タスク(仕事)を重視し採用したとのこと。採用時には不安もあったという加藤氏ですが、実際に採用してみるとタスク以上の好影響があったと話します。
「AI開発チームを任せたインド人のエンジニアが『インドでAI事業を展開している企業と提携できます』という提案をしてきました。ライセンスやコストについて自ら調べてきたんですね。私たちにはインドの企業と提携するという発想はありませんでした。外国人のメンバーが新しいアイディアをくれることで、定量的なリターンよりも定性的なリターンがあると思い、アセットが変わることの大きさを感じました。このほかにも、日本語が上手な外国人メンバーがネイティブである英語を使って、ほかの外国人メンバー向けにメッセージ動画を作成しています。自分の働きやすさを自分たちで開拓していくというある種のハングリーさを感じます」
3-(2).それぞれの文化を尊重した1対1の接し方
また、加藤氏は外国人と一緒に働くなかで、寄り添うべきポイントについても伝えました。
「最初に採用した外国人メンバーはヨルダン人でイスラム教徒でした。当初はクライアント先に常駐して開発する仕事でしたが、ある時『礼拝を1日5回しないといけないので個室をなんとか用意してほしいです』というオーダーがあり、クライアントに交渉して1つの会議室を独占するというネゴシエーションもありました。ほかにもベジタリアンのメンバーに配慮した経験や、ベトナムに立ち上げた会社では『テト』という旧正月の前に賞与を支払うのが普通であるといったこともあり、文化的な背景もふくめて個別で対応することを意識しています。また、マネジメントの観点においても印象深いことがあります。私自身フィリピン・セブ島に3年間住んでいた経験がありますが、セブでは人前で絶対に親は子どもを叱りません。人前で怒っていたら店員が止めにかかるくらい『恥じる』ことをすごくいやがる文化なんです。外国人メンバーを採用したことで、右向け右の日本文化ではなく、1対1の接し方をするという当たり前の部分が重要だとあらためて気づかされました」
外国人を採用するときには、国や文化といったそれぞれの背景を考慮し、柔軟に対応することも、個人が働きやすい環境づくりのために大切だということをうかがい知ることができました。
4.編集後記
イベント当日は20名を超える人事担当の方や経営者の方が来場しました。セミナー後の交流会では、各社の取り組み状況などを積極的に情報交換していました。外国人採用について参加者がさまざまな角度から考えることにより、受け入れる日本企業側の視野が広がることを感じられるイベントとなりました。