【外国人雇用専門家が教える】入社後3年以上辞めない外国人受入れの3つのコツ

現在、日本企業は深刻な労働力不足に陥っています。数ある統計データのなかでも人口動態のデータに関しては、ほぼずれない未来が待っていることは言うまでもありません。そのなかなかで近年重要視されている外国人材の活用は、現状、557万8975事業所*1あるなかで、21万6348カ所*2が外国人を採用していることが分かっています。

一方、外国人を採用するだけでは、なかなか、思い通りのパフォーマンスを発揮することができずに、企業、外国人社員ともに苦い思いをすることも多々発生しています。ある意味では、採用活動より入社後活躍してもらう方が企業のマネジメントとしては難しいのではないでしょうか?ただし、これからのトレンドを見た時に外国人の受入れ、定着、活躍を進めていくことは必須条件になり、いかに定着、活性化したかが企業の成長の成否を分けるときがくるかもしれません。

今回はうまく進めている企業などを多く見てきた外国人雇用専門家の見地から、共通するコツを解説するとともに、外国人活用のヒントとして、一緒に考えていきましょう。

入社後の離職を減らすには、採用目的を明確にする

入社後の定着、活躍を考えるときに、入社してからの制度や、受入れ体制の準備などをすることは重要です。ただし、その前に、誰を何のために採用するのか、「採用の目的」が重要になってきます。

日本総合研究所「「人手不足と外国人採用に関するアンケート調査」結果」(2019年4月17日)によると、実際の採用背景としては労働力不足、人手不足が圧倒的多数です。しかし更に考えを進めていくと、労働力不足は、何のために改善するのでしょうか?「何かの製品を作る人が足りない」「何かのサービスを提供する人が足りない」「何かを始めたいが人がいない」等、不足している背景とそれを解決したい理由があるはずです。それらを解決する策として、外国人の採用、活用が適当であることが企業、外国人双方にとってとても良いことです。

たとえば「何かの製品を作る人が足りない」であれば、その作った製品は、日本だけで売るのか、海外でも売るのか、外国人の視点もいれて作ることによって、海外で売れる可能性が広がるのか、言語、風習、マーケットなど日本人だけの組織では得られない観点で物作りができるかもしれません。海外をマーケットにして進出や販売をしていかないと今後の企業の成長は見込みづらいなかで、外国人の採用の意味を一緒に考えることで、何のために採用するのか?という採用の目的が明確になってきます。

まとめると採用の目的は、「労働力不足だから」から、「●●という製品を●●という技術で作る人が足りないから」を更に「●●という技術を持っている外国人が作ることで〇〇に販売していくことができるから」というふうにこれが本当の採用目的となります。

そしてこの採用目的を外国人採用するときには採用プロセスのなかで必ず一番最初に伝えることで外国人の候補者は、自分たちが何を求められているか、単なる労働力ではない、ということを理解して、志望意欲やモチベーションがあがっていくのです。ぜひ、自社の採用目的をもう一度考えてみてください。

受け入れ側の準備とは

外国人採用の目的が決まったら、次に重要になるのが受け入れ側の準備です。当然、外国人本人が入社前にする勉強や準備などは重要ですが、採用企業から見たときに外国人社員が活躍してくれるための準備をまとめたいと思います。

1.受け入れ上司・現場の理解の醸成

よくある事例が社長、経営者が外国人採用を行うことを決めたが実際、その外国人が入社して配属される部署の上司になる人や現場で教育する社員などに目的が伝わっておらず、理解を得ていないためにうまくいかないケースを多く耳にします。

まず重要なことは、先に述べた通り、採用の目的を考えるところから、受入れ先になるだろう上司や、教育担当などを人事の採用担当が意見をまとめるなどして、採用目的の合意形成を図ることが重要です。そうすることで、この入社してくる外国人社員を育成する意味が浸透するので、入社後のフォローが必然としやすくなりますし、育成側もコミットメントも自然と増してきます。できれば、採用選考のどこかのタイミングで、受け入れ先の上司や教教育担当者などを評価者として加えるなどするとさらに良くなると思います。

2.国籍・文化など特質的なことへの配慮

あとでも述べますが、外国人を採用したからと言って、大切に特別扱いしましょう、では持続的な事業継続は難航します。人事制度や福利厚生など特別扱いはしないで良いと思いますが、いくつか日本人との違いを受入れ側は理解しておく必要があります。

たとえば、日本人は無宗教が多いですが、アジア諸国の国籍の外国人採用などでは、イスラム教やヒンドゥー教などあまり日本人がこれらの宗教の特徴を知らないことも多いと思います。宗教によって、食事の制限や礼拝の時間や場所が決まっていたり、触れないものなどもあったりします。これらを知っていることで外国人の社員が安心して働くことができる環境を作ることもできます。

他にも日本人が普通に休みをとる感覚である日本の年末年始の連休は、中華圏などでは、それほど重要視されず、むしろ、旧正月と言われる、中国での旧暦にあたる正月休み(例年1、2月で毎年変動する)が新年になるので、そのタイミングでお休みをとりたかったり、家族のもとへ帰省したいなど、タイミングが違うだけで日本人と同じように行動をしたいと思っています。

また商習慣や価値観なども理解しておくと、受入れ時の企業側と外国人社員との認識のギャップが早く気が付き、改善しやすいというメリットもあります。これは、逆に外国人社員にも言えることで、定着、活躍する人材の多くは異文化適応力が高い傾向があり、良く分析をしてみると、日本のカルチャーへの理解が早かったり、日本の会社、組織の仕事の進め方や意思決定のメカニズムを早期にキャッチアップしている人材は、活躍して高い評価を得ているようです。

3.外国人社員を一人にしない

これは、日本人である自分が見知らぬ地である海外で一人で働くことを想定すればすぐにご理解いただけると思います。留学や何かで日本に住んでいたとしても母国と違い、不安が多いものです。外国人社員の特徴としては、同じ国籍のコミュニティがあったりするので、多くの外国人在住者は、そのようなコミュニティでなんらか情報を得ていると思います。

同様に社内でも一人にしない工夫が必要です。いくつか、方法があります。

  • 1名ではなく、同期入社ができるように複数採用をする
  • 上司や教育担当以外に斜め上などの社員のメンターを付ける
  • 社外の同じ国籍のコミュニティなどへの参加を業務に支障が出ない範囲で極力促進する
  • 同じ部署以外の横断の社内交流やレクリエーションなどの機会を用意して参加してもらう

などの工夫は社内で用意しましょう。またこれ以外にもあると思いますので、「一人にしない」という意識を受け入れ側は持ってほしいと思います。これにより、外国人社員も大切にされていることに気づき、心理的安全性が高まるので定着につながります。

特別扱いをしないことが重要

今までいくつか外国人採用をして、定着、活躍してもらうための準備や考え方を述べてきましたが、これらも含めて日本人社員の採用、育成においても定着、活躍を考えると活用できる内容かと思います。つまり、日本人社員と外国人社員の採用、育成を考えた時に私は、特別扱いをしない、ことこそが一番重要なのではないかと思います。

先に述べた、国籍や文化的背景、宗教、異文化適応などもすべて、日本人・外国人という違いではなく、その人特有の個性と考えることが良いのではないでしょうか。

たとえば、日本人でもタイ人でも寡黙なタイ人もいれば、おしゃべりなタイ人もいます。微笑みの国タイと言われますが、しかめっ面な人もいるでしょう。これらは、日本人にも同様のことが言えて、それはその人特有の個性です。その個人の個性を面接や配属組織で見定めて、その人のためを思い、その人にあった育成をしていくことで、定着、活躍のスピードがあがります。

企業経営に当てはめて、外国人と日本人を分けて特別扱いをしないことをみていくと例えば、以下のようなものがあります。

・外国人の定着には、評価制度を明確にして、目標を定量にしてゴールを明確にする。基準を明確にすることで、評価の納得性を高める、など言われることも多いですが、これは、外国人に限ったことではなく、日本人社員が定着、活躍するためにも当然、必要な制度です。
・給与や評価も同一労働同一賃金の法律の導入も後押しされますが、給与の差がない状態を作り、評価も同じ基準と制度で公平にする必要があります。
・福利厚生も同じことが言えると思います。ただし、気を付けて頂きたいのは、外国人雇用の際には、就労資格など日本人には必要のない準備などもありますので、これらは特別扱いではなく、必要最低限の採用企業側の準備として用意する必要があります。

これら、特別扱いをしないことを日本人社員も外国人社員も経営側と同じく理解することで、チームワークや切磋琢磨する意識が芽生え、定着、活躍を促進されていきます。ぜひ、一度社内の制度を見直してみてください。

まとめ

日本企業はこれから少子高齢化が進むなかで、日本人だけ雇用していては労働力不足になることはあきらかです。自動化、AIやIOTなどテクノロジーの力を活用しながらも外国人の活用は必然の流れです。

早期に取り込み、自社での活用の仕組みが作られれば、外国人採用が当たり前になるであろうこれから3~5年後にはそれ自体がみなさんの会社の優位性になっていることかと思います。日本企業の多くがそれに気づき、現時点からトライアンドエラーを重ねてでもより良い会社、組織作りができることで日本が再度アジアでの存在感を増し、日本に優秀な人材がはいってくる好循環を生むのではとないかと思っています。

今後も外国人採用のみならず、育成、定着、活躍など入社後活躍をテーマにノウハウをお届け出来ればと思っています。今回のアドバイスが皆さまの会社のお役に立てれば幸いです。


*1:総務省「日本の統計2020 第7章 企業活動」より(数値は2018年のもの)
*2:法務省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成30年10月末現在)より


【参考】

日本総合研究所「「人手不足と外国人採用に関するアンケート調査」結果」(2019年4月17日)