従来、外国人労働者を雇用するには原則として高度人材である必要がありましたが、今般の入管法改正により、単純労働者の就労も認められるようになりました。すでに多くの外国人労働者を雇用している企業や、これまで採用したことがない会社にとっても大きな転換点を迎えていると言えます。
そこで今回は外国人労働者を雇用するうえで人事担当者が注意したいポイントやデメリットをご紹介します。企業側として外国人の雇用が当たり前になる状況を見据えて、外国人をスムーズに受け入れるには何をすればいいのかを見ていきしょう。
外国人採用を検討する前に
日本企業が外国人労働者を受け入れる理由としては、大きく2つあります。1つは日本の労働人口が減少することによる生産力の低下の防止で、2つ目はグローバル化への対応です。優秀な外国人労働者を日本に取り入れることで、日本の競争力を高めるのが主な目的です。特に最近は語学力に担当な外国人が多く、日本語、英語、第三外国語を扱うトリリンガルのアジア人学生も目立ちます。
しかし、外国人雇用はメリットばかりではありません。実際に外国人を採用するには就労ビザの取得や教育研修の実施、メンタルサポートなど様々なコストが発生することに注意が必要です。それぞれ具体的に見ていきましょう。
外国人を採用する5つのデメリット
外国人を採用する注意点・デメリットは次の5つです。
- 就労ビザの取得手続きに関する手間
- 教育・日本語研修にかかるコスト
- 価値観や慣習の違いから生じるコスト
- 言葉の壁から生じるコミュニケーションコスト
- 定着リスク
1. 就労ビザの取得手続きに関する手間
「就労ビザ」とは、一般的に在留資格のうち「労働が可能な在留資格の総称」を言います。「就労ビザ」という在留資格自体があるわけではありません。
外国人労働者を雇用する際には、ハローワークへの届出や雇用契約内容と在留資格の兼ね合いの確認など、日本人を雇用する場合と比較して手続きが煩雑になります。加えて、就労ビザを取得するためには、原則として、大学や大学院での専攻と就労内容が一致している必要があります。高卒や専門卒は原則として就労ビザ取得は難しいというのが現状です(ただし、最終的な判断は法務大臣の広範な裁量に委ねられています)。
さらに十分な知識を有せず外国人を雇用してしまうと、雇用主側が不法就労助長罪等に問われる可能性もあります。行政書士や社会保険労務士の専門家にアドバイスを受けるなどして適正な外国人採用の手続きを踏むようにしましょう。
2. 教育・日本語研修にかかるコスト
外国人労働者には日本独自の商慣習やビジネスマナーを覚えてもらう必要があります。また日本語スキルの向上も必須です。特に英語圏の方にとっては漢字やカタカナ、尊敬語や謙譲語などの使い分けはとても複雑です。各業界によってビジネスのみで使用する専門用語などもあるため、外国人社員向けの定期的な日本語研修が欠かせません。
しかし現在はビジネス日本語研修やマナー研修を請け負う民間サービス会社が充実しています。気にある人事担当者の方はぜひ一度チェックしてみてください。
さらに入管法に精通した行政書士や弁護士への教育・研修依頼が必要になる場合もあります。外国人就労者は原則として、常に在留カード等の身分が確認できるものを携帯する必要があります。そのため雇用した外国人が身分証明書の携帯を怠ったり、警察の職務質問に明確に答えられないことがないよう十分に研修しておくと良いでしょう。また、在留資格(就労可能な資格)を有していても、当該在留資格の範囲内でしか日本で活動することができない点にも注意しましょう。
3. 価値観や慣習の違いから生じるコスト
外国人を雇用し、継続的に働いてもらうためには様々な価値観や慣習を社内全体が共有しなくてはなりません。文化・宗教の違いによって何気なく差別用語を使ってしまったり、外国人を不快にさせる行動をとったりしてしまうことがあります。一方、外国人は残業が必要な雰囲気のなかでも定時通りに帰ったり、正確な時間通りに動いてくれないことがあります。
外国人労働者との共存について社員の認識が明確でないと社内に摩擦が起こりうる原因となります。そのため国籍ごとで外国人雇用のマニュアルを作成するなど、日本人社員に対しても文化の違いを理解する研修を実施しましょう。
4. 言葉の壁から生じるコミュニケーションコスト
言語の違いや慣れない環境で仕事をすると、同僚にも上手く相談できないためストレスが溜まりやすくなります。せっかく有能な外国人材を採用しても離職を早めてしまうでしょう。
そこで日頃から部署のリーダーが声かけするなど、積極的にコミュニケーションを図ることが重要です。業種によっては日本語スキルをさほど必要としないこともありますが、同僚とのコミュニケーションはもちろん、日本での生活がストレスにならないよう、十分に配慮してあげることが大切です。
5. 定着リスク
外国人にとって日本は魅力的に見えますが、「過労死」など日本特有の労働問題も多数あります。外国人労働者を単なる労働力と見てしまうと、技能実習生の失踪ニュースの例のように日本に定着してもらうことが難しくなります。
外国人労働者を過度に優遇する必要はないですが、日本人と同等の扱いをし、快適に長く働いてもらえるような労働環境作り・職場作りが大切です。
入管法改正により今後は単純労働者を含めた外国人労働者のさらなる増加が予想されます。そうなれば有能な外国人材の取り合いも激化するでしょう。外国人労働者を「選んであげる」のではなく「選んでもらう」という謙虚な目線で採用活動を行うことも大切です。
まとめ
外国人を雇用する際のおおまかな流れは、「人材の選定→雇用契約締結→在留資格取得の申請→各役所への届出」となります。入管への取次申請が認められている行政書士や弁護士に依頼した場合、1人の在留資格取得の申請に対して十数万円のコストがかかります
このように外国人労働者の採用時は多くのコストがかかりますが、若くて向上心に満ちた外国人材を育てあげれば、会社に欠かすことができない貴重な戦力となります。引いては日本の深刻な労働力不足も解決する人材となるでしょう。
外国人採用を検討する際は、採用時のデメリットを認識しつつ、その先にある成長可能性を加味して外国人を選定することが大切です。